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旭川市民劇場
旭川市民劇場とは2012年上演作品・過去の上演作品入会のご案内事務局
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第回 [PR](2024.04.27)


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第7回 鍛冶直人さんインタビュー(2012.08.25)




2012年8月例会「花咲くチェリー」文学座 鍛冶直人さんへのインタビュー。

舞台俳優 鍛冶直人
鍛冶直人さん───鍛冶さん主演の「花咲くチェリー」が北海道で初日を迎えました。今のところ手応えはいかがですか。

 どこの会場からもあたたかい拍手をいただいて、やっている方としては非常にありがたく演じさせていただいています。
───今回は渡辺徹さんの代役で急遽チェリー役に抜擢されましたが。

 八年前に最後の北村和夫さんの「花咲くチェリー」を観まして、その時の印象が強烈に残っているので、僕にお話をいただいた時に、まず年齢的なことで「僕で大丈夫なんですか?若すぎませんか?」と心配しました。渡辺徹さんのチェリーを観たときにも「若いな」と思ったんですね。実際には、徹さんの年齢とチェリーと、ほぼ同じ年代なんですけどね。
 北村さんが初演でやったときに今の僕とほとんど同じ年齢だったということだし、演出家が大丈夫だと云うんだからそうすればいい、と。
 「杉村春子の『女の一生』」「北村和夫の『花咲くチェリー』」と云われるくらいの文学座の看板であり財産である芝居なので、久しぶりに劇団の芝居に出るのがこんな大役で、しかも出演が決まったのがゴルデンウィークの頃だったので、もう体ごとぶつかってやるしかない、と腹を括ってかかりました。

 渡辺徹さんにはすごくかわいがってもらっていて、大事な先輩が体を壊してその代役をつとめるということもあって、あまり諸手を挙げて喜べることではなかったんですけど、やっぱりチャンスだと思ったし、なんとか活かしたいと思いました。でも、プレッシャーでしたね。自分以外のキャストやスタッフの皆さんはもう三回目の上演で、どちらも観ているので、稽古をしている最中にも周りの人はどう思っているんだろうな、と気になっていました。
 心配半分期待半分という風に見られている、でもそれはやっぱり打ち克たなければいけないところなので。実際舞台に立っている時にはそういうことは考えないんですけど、舞台が終わってカーテンコールで、今のところすごく暖かい拍手をいただいているので、ああ、よかったなと思っています。
───俳優になろうと思ったきっかけは何ですか。

 僕は大学を卒業するまでずっとラグビーをやっていまして、演劇はやったこともなければ観たこともなくて、卒業後はサラリーマンを二年やっていました。ラグビーで、レギュラーのメンバーというのは何万人という観客の中でスポットライトを浴びて試合をしているわけです。でも僕はレギュラーにはなれなかった。もともとサラリーマンを続けるつもりはなくて、いくつか理由はあったんですが、自分もスポットライトを浴びたい、学生時代に味わった興奮をもう一度味わってみたいという感じがあったんですね。
 その時に、小さい頃から漠然とした夢として、本当に誰もが持ってるような「テレビに出たい」とか「有名になりたい」という夢でしかなかったんですけど「俳優になりたい」というのがありました。
───その中で、文学座に入られたのは。

 その当時僕が勤めていた会社が、大学の先輩の会社だったんですけど、会社辞めて役者をやろうと思ったときに、社長に「俳優になりたいので会社を辞めます」と報告しに行ったんです。社長は、お前がやりたいことをやればいいと思う、応援するから、と云って下さって、演劇の制作をやっている方を紹介して下さった。その方から「君みたいなタイプはちゃんと一から勉強して焦らずに長い目で見てやった方が良いと思うから」と、文学座と俳優座と無名塾、この三つを受けてみたらどうかとアドバイスを頂いて。その時初めて「あ、試験を受けなきゃ入れないんだ」と知ったんですけど(笑い)。それで、試験を受けまして、文学座を選んだんです。

 正直、僕が最初に俳優になりたいと思ったのは、映画とかテレビとか、映像の俳優になりたかったんですね。だから、劇団に入ってみると、映像の仕事よりも舞台の仕事のほうが多くて、僕も今はたまに映像の仕事もやるんですけれども、舞台が中心です。
 やっぱり、作り方だとか順番だとか、極端な話をすると、テレビの仕事だと先にクライマックスのシーンを先に撮って後から頭のシーンを撮って、ということもあったりする。観客がそこにいるわけでもない。だから、最初の動機としては映像の俳優だったんですけど、実際やってみると舞台のほうが面白いし、こういうふうにお客さんが入って、その土地土地で色んな人に出会って、舞台でしか味わえない醍醐味があります。

 一昨年一年間、文化庁の在外研修でロンドンに行ったんですけど、その時に感じたのは、役者というのはやっぱり舞台が大元にあって、舞台が出来ないと認めてもらえないというところがある。どんなにハリウッドとかで売れている役者でも舞台をやってますしね。アメリカやヨーロッパ、向こうの評価というのはすごくシビアで、どんなに有名な人が出演していても、つまらないお芝居だったら一週間とか十日とかで打ち切られてしまう。そういう厳しい中で向こうの役者はやっている。
 それと、生活している人にとってすぐそこに舞台がある、演劇がある、という環境がすごく羨ましかったですね。客層も、日本では多く女性のお客さまに支えていただいているんですけれども、向こうでは、男性、いい年をした男性のお客さまが非常に多くて。ご夫婦であったりとか、子どもから若い人、年配の方まで客層が広くて、それも羨ましかったです。
───やはり舞台がいちばん魅力的ですか?

 自分で云うのはおこがましいかもしれませんが、敢えて云うとしたら「舞台俳優」というところに喜びというか、誇りを感じています。もちろん映像もやりたい、全部やりたいんですけれど、根っこは舞台にあると思います。自分が最初思っていたものではなかったので、図らずもといったところですが、良かったなと思います。
花咲くチェリー
鍛冶直人さん───「花咲くチェリー」は古い年代のイギリスを舞台にしていますが。

 普段シェイクスピアとかもやりますので、それは自分でやっていても古典だと思うし、1600年代とかに書かれたものですから、あそこまで古ければ古いで今の価値観とは全く違うものだというふうに感覚的に跳べるんですね。チェリーは1950年代に書かれたもので、ご覧になっていただくとわかると思うんですが内容も1950年代そのままでは作っていない、かといって現代でもない、恐らくはその間くらいの設定になるんですけども。
 なので、特に時代背景だとか、昔のことだという意識はないですね。
 それよりは、そこにいる相手役といかに生きるか、どう関係するかということを意識していますので、とくに昔のことだと考えてはやっていないです。
───チェリーは、悪い人ではないのだけれど苦しまぎれの嘘をついたり空回りしたり…、そうした人物を演じるにあたって意識していることはありますか。

 チェリーという役は、僕の中ではそう特殊な人だとも思っていなくて、おそらく皆さんのお父さんであったり旦那さんであったりおじさんだったり、身近な人に近いのではないかと思います。もちろん、お芝居なのでデフォルメされて極端になっている部分はあると思うんですけど、ああいう感じって、男だったら誰しも持っているんじゃないのかな、と。

 僕も会社勤めを辞めて俳優になりましたが、大体の場合が、サラリーマンの方ってその仕事や職種がどうしてもやりたかったかというと、そうではなかったりしますよね。もっと大きな会社に入りたかっただとか、必ずしも自分がやりたいことをやれていなかったり。
 この芝居は、観る人の立場によって全然見方が違ってくると思います。奥さんの立場から観る人もいれば、チェリーの立場から観る人、息子や娘の立場から観る人もいる。チェリーは最終的には捨てられてしまいますが、それまでの二十五年間ちゃんと仕事をして家族を食べさせて来た、ちゃんとしたお父さんだと僕は思うんですよね。
 一生懸命やっているけれど上手く行かないこと、なんで上手く行かないんだ、っていうことは人間だったらあると思うし、なるべく自分の実体験にすり合わせるところがあればすり合わせるようにやっています。すごく難しい役で、まだ全然僕も出来ていないと思うんですけれども、何かしら自分の中にチェリーと重なる部分を見つけて演じようとしています。
───色々な役をやる中で、やはり自分と重なる部分が役の核になるのでしょうか。

 役者によると思うんですけれども、自分の持っている引き出しの中で、何かしら重なる部分があったほうが役を作るときに非常に役立つのではないかなと思います。
 今回だと、僕は実際書かれているチェリーの年齢よりひとまわりくらいまだ年が下ですし、演出の坂口にも稽古中に「そこはそうなんだけど、鍛冶とは全く逆のような人間だからさ」などとよく云われたんですね。だから、僕のこの役に対する入り方が「自分とは全く違う役だ、違う人間だ」という先入観があって入ってしまったんですけど、確かに違うところはいっぱいあるんだけれど、でも実際に「逆」か?と考えると「逆」でもないな、と。稽古でもがき苦しんでいる最中に、最初のうちはその「自分と違う」ところを演じようとして上手くいかなかった部分がたぶんいっぱいあったと思うんですけど、役の作り方というか今までやって来たことに立ち返ってみると、自分に似たところであったり同じものを持っていたりするところを探し出したほうが、僕のチェリーになるんじゃないかなと思って。
 それが稽古の最後の一週間くらいですかね。それまではもう頭の中がいっぱいいっぱいで、夢にまでチェリーのことが出て来たりとか(笑い)。
───鍛冶さんのチェリーはまだこれから、というところでしょうか。

 生意気な云い方かもしれませんが、舞台はお客さまがいらっしゃって初めて完成するものだと思うので。北海道は残念ながら旭川での公演で終わりですが、あと四十日くらい九州の方へ行きますので、その中でお客さまと一緒に作って行って、もっともっと、今回のツアーの千秋楽の時には「良かったよ」と云ってもらえるようなチェリーになれたらなと思います。
───あと…、作中に出てくるリンゴ酒なのですが、あの樽の中味は?

 舞台では薄めた紅茶を使っています。実際にチェリーが飲んでいるリンゴ酒は、田舎の方で作っているものなので、ほとんど炭酸がなくて酸っぱい味がするそうです。日本で云ったらどぶろくのようなものなので、アルコールも強いものではないんですけれど、常温でしかも酸っぱみがきついのであまりたくさん飲めるものではないそうです。

 僕が実際ロンドンに行ったときに飲んだリンゴ酒は、フランスにもシードルというのがありますが、炭酸が入っていて甘くて飲みやすい。よく冷えていて、アルコール度数もビールと同じくらいですね。
───本日はどうもありがとうございました。



(取材:2012年8月8日旭川市民文化会館 インタビュー構成:淺井)




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